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財の序列を決めるものは何か

  • Writer: Daniel Tanaka
    Daniel Tanaka
  • Sep 23
  • 3 min read

――希少性ではなく「限界費用」と「エントロピー抵抗」


流動性プールという視点


財は孤立したものとして存在するのではなく、流動性プールの中で他の財と交換されることで初めて財としての意味を持ちます。財のプール内における序列は単純で、流動性が高いものの序列が上になります。流動性とは究極をいえば「欲しい」あるいは「必要」と思う気持ちであり、需要と供給が交わる場でその流動性の高さが測られます。


需要を決める要因は「希少性」ではない


通貨の話をしていると、しばしば「希少だから価値がある」と言われます。しかしこれは誤解であると私は考えます。


現実には、希少でも価値を持つとみなされない財はいくらでも存在します。


例えば私が紙にDanielと書いた場合、その紙は1枚しか存在せず希少性は極端に高いですが、これを高い価値を持つ財だとみなす人はひとりもいません。


なぜでしょうか?


単純にその紙を誰も欲しくないですし、そもそも流動性プールの中にはいっていないからです。財として扱われるためには、まず「欲しい」と思われる必要があり、プールの中に入り、流動性を帯びる必要があります。


”流動性を帯びた上”で、流動性プール内の流動性及びその序列を決定する本質的な要因は次の2つです。以下の2つの積が高いものがプール内で高い序列を獲得します。


  1. 限界費用(Marginal Cost)

    • 追加で1単位を生産するためのコストの高さ。

    • 無限に増やせるものは、どれほど希少に見えても需要を維持できない。

  2. エントロピー増大に対する耐性

    • 時間とともに劣化・崩壊せず、秩序を保ち続ける力。

    • 財が「永遠に保存可能」と見なされるほど、人はその財を求める。


ゴールドとプラチナの比較


この2つの要素を、代表的な貴金属であるゴールドプラチナで比較すると違いが鮮明になります。


  • 希少性

    • プラチナはゴールドよりはるかに希少。

    • しかし時価総額は金の方が高い。

  • 限界費用

    • ゴールド鉱山の生産コストは2021年でゴールド1オンス当たり986ドル。

    • プラチナの鉱山の生産のコストは2021年でプラチナ1オンスあたり496ドル。プラチナを採掘する際に同時に出てくる他の鉱物の換金性により、生産コストは低く抑えることが可能になっている。

  • エントロピー抵抗(化学的安定性)

    • ゴールドは酸化も腐食もせず、数千年経っても輝きを失わない。

    • プラチナも常温では安定だが、高温では酸化物を形成するため「絶対不変」ではない。


参考資料


限界費用の高さでプラチナがゴールドを圧倒していても、不変性においてはゴールドの右にでる財は存在しません。


希少性を根拠にゴールドよりもプラチナの方が絶対王者としてふさわしいのではないかという意見を見かけることがありますが、実は限界費用とエントロピー増大の観点から見れば圧倒的にゴールドが優位だといえます。


序列を生む力


こうして見てみると、流動性プールの中で財の序列を押し上げるのは単なる希少性ではないことがわかります。


要するに、流動性を支えるのは「増やせない」と「壊れない」という2つの評価軸です。


この2軸での数値が高いほど、その財は時間を味方につけ、いずれマーケットの中心にあるマネーの玉座に座ります。ゴールドが選ばれ続けてきたのは決して偶然ではありません。本能的にゴールドに私たちが反応するから、でもありません。


私たちが流動性プールの中で財を評価するのに使うべき判断材料は、希少の物語ではなく、限界費用とエントロピー抵抗という、流動性を実体化させる“財としての条件”なのです。

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