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なぜ暴力と市場は切り離せないのか──「自由市場」というフィクションを疑う

  • 執筆者の写真: Daniel Tanaka
    Daniel Tanaka
  • 2025年11月20日
  • 読了時間: 6分

「自由な市場」「国家から解放された経済」という言葉は魅力的です。

でも少し冷静に考えると、「暴力と無関係な市場」はほとんど存在しません。


  • 所有権を守るのは誰か

  • 契約違反が起きたとき、最終的に何がそれを止めるのか

  • 国境や通貨、制裁や関税は、何によって強制されているのか


その裏には必ず、暴力の構造があります。


この記事では、「暴力と市場の関係」を整理しながら、「自由市場」という言葉をどう捉え直せばいいのかを書いてみます。


1. 所有権の裏側にはいつも暴力がある


まず極端な問いから始めます。

「あなたのビットコインあるいは不動産や株は、なぜあなたのものなのか?」

技術的には秘密鍵を持っているから、登記簿に名前があるから、と説明できます。

でも、本質はもう一段深いところにあります。


  • あなたからそれを奪おうとする人が現れたとき

  • 奪う側を止めてくれる存在がいるかどうか


ここで初めて「所有権」が実体を持ちます。


それが国家であれ、法制度であれ、地域コミュニティであれ、最終的には 「言うことを聞かない場合に、どこまで強制できるか」 という暴力の問題になります。


  • 税金:払わなければ、最終的には資産の差し押さえや逮捕まで遡上する

  • 不動産:登記を無視して占拠する人を追い出すのは、裁判所と警察

  • 株式:会社法と証券法を守らない場合に科される罰則


つまり、市場で売買される「権利」は、暴力構造によって裏付けられたラベルです。暴力がまったく存在しない世界では、「権利」は単なるお願いにすぎません。


2. リバースドミナンスと「みんなで止める暴力」


人類学には「リバースドミナンス」という概念があります。


  • ひとりの圧倒的な強者が他者を支配しようとすると

  • 集団全体が協力して、その強者を引きずり降ろす


というメカニズムです。


これは原始的な狩猟採集社会で、「王様のような存在が出てこないようにする仕組み」として働いていた、と言われます。


この視点から見ると、市場が成立する条件はこう言い換えられます。

「誰か一人が暴力を独占しないこと」
  • 誰かが力で全部奪い取ってしまうなら

    • 交換や価格メカニズムが成立する前に、すべてが略奪で決まる

  • 集団が協力して「一人勝ち」を抑え込めるなら

    • 力ではなく交換・信用で資源を配分するインセンティブが生まれる


つまり、市場とは「暴力の独占を許さないための、もう一つの調整メカニズム」でもあるといえるのではないでしょうか。


そういう意味で、リバースドミナンスは、暴力の否定ではなく、暴力の「分散」と「均衡」のための仕組みだと言えます。


3. 国家が暴力を独占するとき、市場はどうなるか


近代国家は、暴力を「正当な独占」として一箇所に集めた存在です。


  • 警察、軍隊、裁判所、牢獄

  • 通貨の発行権、税徴収権、資本規制


これらはすべて、暴力を背景にもつ権力です。


このとき、国内では一見「自由市場」が成立しているように見えます。


  • 企業同士は基本的には暴力ではなく価格競争する

  • 契約トラブルは殴り合いではなく裁判で解決する


しかしそれは、国家が暴力を引き受けてくれているから可能になっているだけで、市場が暴力から解放されているわけではありません。


さらに、国際レベルでは話がもっと露骨になります。


  • 通貨の信用

  • 海上輸送路の安全

  • 経済制裁や関税、SWIFT からの排除


これらはすべて、軍事力・覇権・同盟関係とセットで動きます。いわゆる「自由貿易」も、実際には 特定の大国による暴力の傘の上で運営される条件付きの自由にすぎません。


4. 相互確証破壊とグローバル市場の「平和」


核兵器を持つ大国同士は、「全面戦争をするとお互いに滅びる」という均衡状態にあります。これがいわゆる MAD(Mutually Assured Destruction:相互確証破壊) です。


  • 直接の総力戦はできない

  • しかし代理戦争や経済戦争は続く

  • それでも、完全な崩壊には至らないギリギリの均衡


この異様なバランスの上に、現代のグローバル市場は乗っています。


「暴力の均衡があるからこそ、相対的な平和な貿易が可能になっている」

という、かなりブラックな構図です。


ここで重要なのは、

グローバル市場は暴力の不在ではなく、暴力の相互抑止の上に成り立っている

という認識です。


「戦争がない=暴力がない」ではなく、「暴力が巨大すぎて、直接ぶつけられない」というだけです。


5. 「自由市場」は、現実というより「フィクション」に近い


こうしてみると、


  • 暴力から完全に切り離された市場

  • 国家や軍事力の影響をまったく受けない経済圏


というものは、ほとんど存在しません。

「自由市場」という言葉は、「暴力がほどよく均衡している状態」を、あたかも暴力が無いかのように表現したフィクション

として読むほうが、現実に近いかもしれません。


これは「だから自由市場は嘘だ!」と怒るための話ではなくて、


  • どんな市場にも、背後に必ず暴力の構造がある

  • その暴力構造を無視して「市場だけ」を見ても、理解は浅くなる


という 視点のアップデート です。


6. ビットコインは「暴力と市場」の関係を変えるのか?


では、ビットコインのような検閲耐性の高いマネーは、この構図を変えるのでしょうか?


よくある主張はこうです。


  • 銀行口座や法定通貨は、国家が差し押さえることができる

  • ビットコインは秘密鍵を自分で持てば、国家でも勝手には奪えない

  • よって、国家の暴力から切り離されたマネーだ


これは半分だけ合っていて、半分は間違いだと思います。


ビットコインが変えるもの


  • ブロックチェーンを書き換えるために、暴力を使うことはできない

    • 機関銃をノードに向けても、チェーンの履歴は変わらない

  • 資本規制や口座凍結など、「金融システムを通じた暴力」は確かに効きにくくなる

  • 個人が国家をまたいで、自分の資産を逃がしやすくなる


つまり、ビットコインは

「特定の暴力構造に依存したマネー」から「物理的暴力では台帳を書き換えられないマネー」へのシフト

をもたらします。


それでも残るもの


しかし、こういう暴力は消えません。


  • 秘密鍵を知っている人間の「身体」に対する暴力

  • 強制的な KYC、罰金、投獄、見せしめ

  • マイナーや取引所に対する規制圧力


国家は「チェーンを書き換える」必要はなく、人間の側を屈服させることで、依然としてビットコイン経済に介入できます。


なので、

「ビットコインは暴力をゼロにするマネー」ではなく、「どの暴力をどこまで通用させるかのルールを変えるマネー」

と捉えたほうが現実的です。


7. 暴力構造を前提にして市場を読む


ここまでの話をまとめると、


  1. 所有権や市場は、暴力の構造と切り離せない

  2. 「自由市場」は、暴力がちょうど均衡している特殊状態のフィクション名に近い

  3. 国家や核抑止は、グローバル市場の前提として働いている

  4. ビットコインは、暴力が通用するレイヤーを変えるが、暴力そのものをゼロにはしない


という形になります。


この視点に立つと、ニュースの読み方や投資判断も少し変わります。


  • 制裁・資本規制・政治的混乱

    • これはそのまま「暴力構造の変化」

  • 通貨安、財政赤字、インフレ

    • 課税とインフレも、「静かな暴力」としての再分配メカニズム

  • ビットコインやゴールド、USDT などの選好

    • ある暴力構造から別の暴力構造への逃避


「市場=きれいな需要と供給の曲線」という教科書的イメージから一歩踏み出して、

「この市場の背後には、どんな暴力構造があるのか?」

という問いを常にセットで持っておくこと。


それが、これからの不安定な時代に市場を読むための、一つの実用的なフレームだと思います。


 
 
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